子どものこころを開くこんな一言 第11回

「なんであんたは、いつも忘れ物が多いの!」

その2
Y先生:「お母さん、ケンタロー君は、学級のみんなのことをよく考えてくれる子で、仕事をとても進んでやってくれるんですよ。その都度私は、『ありがとうね、ケンタロー君。ケンタロウー君がいてくれるから、先生すごく助かるよ。頼れるなあ。また頼むね』って御礼を言ってるんです。ときどきみんなの前でもほめるんですよ」

これを聞いたお母さんはとても嬉しくなりました。反面、2年生のときに習った先生のことを話さずにはおれなくなりました。
母親「2年生のときまでこの子は、先生や私の言うことをなかなか聞かず、忘れ物もしょっちゅうでした。先生から電話を頂戴したり連絡帳で注意するように書いて頂いたのですが、私がいくら注意してもほとんど聞いてくれませんでした・・・。ところで先生、3年生になって本当に忘れ物をしてませんか?」

Y先生「ええ?忘れ物ですか?2年生のときまでそんなに多かったのですか?今のところしてませんよ。でも、今後気をつけて見ていきますね」

母親「ほんとうですか。とてもうれしいです。あの子には今まで、『宿題したの?』『時間割できたの?』って何度も言ってきました。でも、『分かった。分かった』って言うばかりで、なかなか自分から進んでしようとはしませんでした。でも、3年生になったある日、同じようなことを言ったことがあるのです。すると、ちゃんと学校へ持っていく準備がしてあり、びっくりしたことがありました」

Y先生「それはすごいですね。どんなかかわり方をされたのですか?」

Y先生は、お母さんの努力を持ち上げました。すると、母親「いいえ。それは、私じゃなくて先生のほうですよ。うちの子は、3年生になってから担任の先生が、ぼくのことを1日1回は必ずほめてくれるからやる気が出る、嬉しいっていっているんです。それから、本もいっぱい読みだしています。先生がシールをくれるからいっぱい読むと言ってます。」

続いてお母さんは、ケンタロー君が最近語っていたことを紹介してくれました。

母親「それから、もうひとつあるんです。うちの子、拳法を習ってて、そこでの約束としてけんかのときや普段の遊びのなかで拳法を絶対に使ったらあかん(ダメ)と、拳法の先生から強く言い聞かされているのですが、そのことを2年生のときの担任の先生がご存じで、いつもこのことを持ち出されるのです。本人によると、友だちとけんかしたときに必ず言われるといいます。
『あなたは、拳法を習ってるんだから、相手が先に手を出しても手を出しなさんな。あなたが手を出したら相手の子が怪我をする』と言われ、かなりのストレスになっていたようなのです。そして、この先生は、ぼくの言い分をちっとも聞いてくれなかったといいます。でも、3年生になってから、友だちとトラブルがあったときに、『自分の思っている気持ちを我慢せずに正直に話していいんだよ』とY先生に言われ、自分の気持ちも正直に言ったそうです。すると、先生がほめてくださりとてもうれしかったといいます。相手の子の気持ちも分かったといいます。そのように、Y先生はどこがいけなかったかを気づかせてくれる先生だから、ぼくはとても好きだと話しています。2年生のときの先生のように、ぼくの方が悪いという言い方をしないからいいとも言っていました。先生の対応ひとつで、子どもってこんなに変わるものなのですね」

ケンタロー君は、体格が良くクラスではボス的な存在でした。でも気がよくつく一面があり、実行力も人一倍ある子だと、Y先生は思っています。前担任からは、「ボスだよ」と申し送りを受けていましたが、ことばのニュアンスからネガティブにこの子をとらえているな、と感じていたといいます。

4月の家庭訪問から3ヶ月。ケンタロー君は本をたくさん読み、忘れ物はほとんどない状態が続いています。もちろん、表情も生き生きとしています。

ところで、ケンタロー君の心の中にどういった変化が起こったのでしょうか。実は、Y先生の関わりには、ある指導観と指導法が隠されているのです。次回、この点を中心に教育臨床的な視点から解説します。
では、このへんで。

 

(池島徳大元奈良教育大学教授)