学校安全と危機教育 第11回

不登校は家庭での危機的場面からも起こる

その1
危機的場面で起こるストレスには、睡眠障害、食欲障害、退行的行動、児童・生徒の赤ちゃん返りや幼稚化、心身症の訴え、学校への不適応症状などがあります。

学校で大きな事件・事故が起こったときには、日頃から気になる子どもは、特に大きな影響を受けます。

例えば、いじめられていて、部分的に不登校状態であったり、たまに学校を休む子どもは、学校で大きな事件・事故が起こったとき、大きなダメージを負い、本格的に学校に出てくることができなくなる場合が多いのです。

やはり、危機に対して、強い子とそれに耐えがたい子が出てきます。

我々、教師として気を付けなくてはいけないことは、日頃から、問題を抱えている子は、大きな・事件・事故に巻き込まれたときに、不適応が本格的に表面化するということです。それは、過去のデータからも明らかです。

もう1つは、家庭に癒しの場を持っている子とそうでない子の両方がクラスにいることに留意する必要があります。

学校でいじめられたり、大変な事件・事故があったとき、子どもが持って帰ってきた精神的な不安感を母親や家族が十分受け止めてあげる必要があります。

家でそのような癒しの雰囲気を持っている家庭の場合は、子どもが癒されるのです。

いじめにしても同じです。

長崎県佐世保市の小学6年生の加害児童は、友だちとの間で生じたネットの上での憎しみをあれだけ多く抱いたままでいて、抑えきれないほどの怒りを持っていました。

もし、母親や家族に、心の癒しを求めることができていたらどうだったのでしょうか。

「お母ちゃん、私悔しい。あの子に、ああいうことを言われているのよ。ネットにああいうことを書かれたのよ」とか「お母さん、私、もう、学校行くの嫌」と訴えるなど、母親や家族に思いのすべてをぶちまけ、本人の心を癒すことができていたらどうだったのでしょうか。

加害児童は、1人でずっと怒りをため込んでいて、それが頂点に達し、あのような事件に発展したのではないかと推察されます。

専門家の発想ですが、私は、家庭とは、子どものいろいろなストレスとか怒りの気持ちを、スポンジのように吸い取るような機能を果たすものだと思います。

その家庭が、ストレスや怒りを逆に倍増させるところであったとしたら、子どもにとっては逃げ場がなくなり、ますます、危機的な場面が避けがたい現実になるところまで、追い込まれてしまうでしょう。

ですから、もし、学校に危機が起こって、子どものケアをしようと思ったら、必ず保護者を呼んで保護者に協力を仰ぐことが要求されます。

学校での対応を伝えた上で、子どもが家に帰り、いろいろとお母さんに話しかけてきたら、その話を聞いてあげたり、子どもがしがみついて「一緒に寝て」と言って抱きついてきたら、たくさん抱きしめてあげてほしいと思います。

そのような家庭の癒しのプログラムへの協力をお母さん方にお願いします。

心の癒しについては、学校の先生方が勉強されて、学校だけで対応しても、限界があります。

子どもたちが一番おびえる夜は、家で体験するわけです。

夜というのは、子どもにとって、不安が再現される1つの場面でもあります。

そのような重要な場面を十分フォローしてくれる保護者の協力が不可欠です。学校側は、家庭に積極的に支援を頼まなくてはいけません。

その2
それともう1つは、我々の研究の結果からみると、子どもの心は非常に傷つきやすいのだけれども、立ち直りも速いということを忘れてはいけません。

彼ら・彼女らは成長と同じように、傷からの快方も速いのです。

一般に、外国の文献でもそのようなことが言われています。

子どもたちは、傷つきやすいんだけれども、我々の対応次第では、子どもの成長と同じように、非常に速い回復の力を持っていることを忘れてはいけないと思います。

次に、危機時の教師のバーンアウト、燃え尽き症候群の問題についてです。

私は、学校教師というのは、責任を問われたり、危機に陥ったりしたときに、非常に無理をする職業的な立場にあると思います。

看護婦や学校の教師のようなヒューマンサービス、人間援助の教育という視点からみると、当然、指導し世話をするのが、学校の役割だと教師は思うものではないでしょうか。

相手から求められると、すべて、提供しなくてはいけないような立場にあり、ついつい無理をしてしまいがちです。

教師のバーンアウトに対しては、情緒的、身体的、精神的な兆候に注意する必要があります。

燃え尽き症候群になってしまうと、絶望感、無力感や、もうどうなってもいいといったあきらめの気持ちが強くなります。

身体的には、胃痛、頭痛、過食、不眠、眠れないなどの症状などを訴えるようになります。

精神的には、仕事に集中できなかったり、仕事のコントロール感がなくなってしまいます。

期限内に自分の思うように仕事を終えることができななります。

しかも、どこまでやれて、どこまでやれないのかといった自分の仕事量を計算できない状態で、計画に沿って仕事がはかどらなくなります。

このような兆候があると、エネルギーを全て使い切ってしまっている状態、バーンアウトの状態だと言えます。

ここまで陥ってしまい、全く無表情になってしまってからでは、対応は遅いのです。

バーンアウトについては、事前にチェックして、周囲が気付いてあげなくてはいけません。

特に管理職、同僚の教師は気付いてあげたいものです。

この燃え尽き症候群は、大変な事件・事故が起こると必ず2次災害として起こる可能性があり、確認しなくてはいけないことです。

その3
心の癒しの教育プログラムには、自由時間、フリー・プレイ、絵画と作文、クラス討論、朗読と合唱、ボディーコンタクト・ゲームなどがあります。

大きな事件・事故があった後は、いきなり授業を行うのではなく、このプログラムを実施したいものです。

私が大学附属中学校の校長のとき、須磨区の少年事件が起こりました。

この事件では、中学生が一番、ショックを受けていると私は感じました。

それで、翌日、臨時の全校集会を開き、「君たちは、大変なショックを受けたことでしょう。

同じ君たちの年代の中学生が犯人として逮捕されたのです」と話した上で、土師淳君へのご冥福を全生徒で祈りました。

どんなことがあっても、人の命を奪うことは許されないと話をしました。

集会では、15分程度、そのような話をして、生徒を教室に戻しました。

しかし、翌日の新聞によると、いきなり教科書を開いて授業を始めようとした学校があったそうです。

その学校では、「こんなときに、いきなり授業ですか」と先生に抗議した生徒がいたとのことでした。

私は、その記事をみたとき、そのような事態では、いきなり勉強に入るよりも、我々は、子どもたちの動揺した気持ちを汲んで心の教育を行いながら、次第に子どもたちの気持ちを落ち着けてあげる取り組みを行うべきだと思いました。黙祷や冥福を祈るということは、子どもの心を落ち着けるのです。

逮捕された犯人が自分と同じ中学2年生であり、自分たちと同じ年代として、大なり小なり責任を感じている面もあるはずです。

下手をすると、同じような残酷な行為を自分もしてしまうのではないかと不安を抱いている可能性もあります。

そのような心の揺れや恐れの気持ちを十分に教育の現場で癒してあげる必要があります。

私は、授業というのはそのような形の心の教育も必要だと思います。

カウンセリングというものには、信頼関係の確立、情緒表出の促進、傾聴すること、共感すること、勇気づけと希望を育む支援という専門的な基本事項があります。

やはり、信頼感のもてる人がサポートをすることが重要です。

しかも、傾聴や共感の中で、思い切り泣かせたり、怒りを思い切り出させ、決して抑えない。

そして、罪悪感やその悲しい気持ちを聞いてあげます。そして、「私も悲しい。本当に大変なんだよね」と共感します。

がんばってねではなくて、がんばろうねという感じのお互いの共感性がポイントです。

それから、勇気と希望を持つことができるように、徹底してかかわることが大切です。

きっとあなたは立ち直れるのだよというような勇気づけのかかわりです。

そして、最後に、私が話した内容をまとめて組み立てれば、これからの教師の研修プログラムになります。話の中で、私は、危機対応のチェックリストも紹介しました。

私の話は、『教師のための学校危機対応実践マニュアル』(編著、2003金子書房刊)の中に非常に詳しく書いてあります。

もし、校内研修で、講師を務めることがあれば、その著書をテキストに使われてもいいのではないかと思います。
(上地安昭元兵庫県立教育研究所・心の教育総合センター所長)