学校安全と危機教育 第7回

高校での危機場面

その1
私の地元の兵庫県の某高等学校において、ある朝、女子生徒が登校時間ぎりぎりに校門を入ろうとしたら、鉄の扉がピシャッと閉まり、そこに頭を挟まれて、即死状態となった校門圧死事件がありました。

このような事件をはじめ、高校の先生方が体験された事例は次のようなものがあります。

入試合格発表時に不合格生徒と合格生徒が喫煙、注意した教師に暴力を振るった事例。終わりのホームルームの前に、席に座っていない生徒に注意したら、教師を殴ってきたというものもあります。

高校なのですけれども、学級崩壊というか、授業妨害というような状況もあります。

ジュースを飲む、お菓子を食べる、唾を吐く、音楽を聴き、演奏する。廊下でスケートボードをする。窓から出て水をまく。メール、電話、喫煙をするといったことです。

やはり、高校では、自殺が多いです。

アレルギーで悩んでいた生徒が焼身自殺。女子生徒が誕生日の前日に自殺。学校を早退し、家で首吊り自殺したケース。

登校しても教室に入らず、居場所が定まらない状態が続いた生徒がいた。心配して探していた担任の前で屋上から飛び降りようとした事例。

ノイローゼによる入水自殺未遂。阪神大震災で生徒が死亡したケースもあります。

そのほか、暴力行為を繰り返し、その都度指導を継続したが、指導を受け入れられずに退学処分となった生徒がいた。その生徒と保護者が、マスコミを利用して学校を激しく攻撃した事例。学校の便所が何度も放火されたものや、レイプによる妊娠などの報告もあります。

このような報告がありましたが、新聞で見る限りでは、非常に厳しい学校の危機的状況があることはご存じの通りだと思います。

その2
先生方に、「このような危機事態に直面したとしたら、どの程度対応に自信がありますか」と質問したところ、「大いにある」と「少しある」を合わせた割合は、だいたい3人に1人の3割でした。残りの7割の先生方は、はっきりと「対応に自信がある」とは答えていません。

それから、教師研修の必要性については、このような講義の後ですから、ほとんど100%の教師が必要だと答えていました。

学校危機に対応する教員研修やマニュアルづくりは、全学校が取り組むべき課題とされ、昨年から、全国的に研修がとても盛んになってきているとの実感があります。

そこで、次に我々が、学校の危機対応に取り組むときの課題・目的は何なのかについて述べてみたいと思います。

第一に重要な目標は、児童生徒と教職員の命の安全を守り、安全を確保することです。

どのような危機事態でも、まず命、心身の安全を守るということを最優先し、我々は対応しなくはなりません。

米国の危機をずっと勉強してきた中で、私は心理学者・教育担当者として考えなくてはいけないことは、まず、児童生徒の命の安全を優先することと、できるだけ犯人から子どもたちを引き離すことではないかと思います。

我々、学校教師は、武器を持っているわけではないので、犯人に防御という形で、犯人から児童を遠ざける対応になります。

ですから、刺股(サスマタ)の練習の在り方も、犯人を押さえ込もうというよりも、犯人を遠ざける、追っ払うというのが目的だと考えた方がよいと思います。

我々が、子ども、教職員の安全を守るために、犯人を逃がしたり、犯人が自ら逃げるなら逃げてOKと考えてもよいのではないでしょうか。

先生方の中には、武道の腕前に、かなり自信のある先生もいると思いますが、一般に、我々、教師がやることというのは、犯人を抑えることよりも、犯人から子どもたちと我々の身を守ること、安全を守ることを優先すべきです。

そのためには、犯人が逃げてもいいのであって、逃げてくれれば、結果として万々歳というくらい割り切って考えてもいいのではないのでしょうか。

その3
危機対応の2番目の目標は、学校の教育組織と運営の機能を正常に保つことです。

危機が起こったら、教室が血痕でもう大変な場面になり、授業の再開が困難になる場合もあります。

窓ガラスが完全に割れていたり、ショックを受けて学校が怖くなり、子どもたちが登校できない状況になることもあります。

このままでは、学校が正常な状況にはなかなか戻りにくい。
命の安全を保ったら、次に必要なことは、組織や施設の安全を早急に回復することです。

先生方や児童生徒も普通どおりに、登校、出勤し、授業が再開できるような、正常な学校活動・運営が可能になる状況を早く取り戻すことが目標です。

3番目の目標は、学校への信頼の回復です。

学校というのは、生徒と教師、保護者と教師、あるいは生徒同士の信頼関係で成り立っているわけです。学校に危機があると、この信頼関係が崩壊してしまう可能性があります。

学校は危ないとか、特に学校の教師の不祥事が起こると、あんな先生に生徒を預けるわけにはいかないと保護者は考えます。
これでは、学校の信頼関係が成り立たない。

このような危機事態が生じたときには、学校の教師や周囲のいろいろな支援を最大限に要請し、学校の信頼関係の回復に努めることです。

重大な事件・事故または教師の不祥事があったけれども、多くの先生方はみんな一生懸命にがんばっていることを伝え、子どもたちを安心して学校に送れるように、生徒や保護者、地域の方々に理解してもらうことが大切です。

池田小学校の当時の校長先生は、保護者の信頼を回復するのは大変なことで、一旦、学校が信頼を失うと信頼を回復するのはとても大変なことです、と語っていたことが私の記憶に残っています。

生徒と教師、保護者、それぞれの間の信頼関係を十分に回復しないと、危機を克服したとは言えません。

4番目の目標は、危機の体験を、危機教育として学校教育に積極的に生かすことです。

一度、危機を体験したら、それでおしまいというわけにはいきません。

このような危機を二度と起こさないという、徹底した危機の再発防止への取り組みが求められます。

もし、危機が起こったとしても、今回のような被害は二度と出さず、被害を最小限にすることです。

危機への構えとして、危機の体験をした以上は、我々は、危機から学んだ教訓を積極的に教育に生かし、子どもたちが危機に強くなるようにする。

俗に言えば、打たれ強くすることです。そのような子どもたちの教育も、危機対応の大きな目標です。

子どもたちは、学校を出てからも、いろいろな社会の危機に遭遇する可能性があるわけです。

学校時代に危機を乗り越えた子どもたちは、願わくば、”ああいう大変な危機も乗り越えた”という自信を学校で培ってほしい。

そうすれば、社会に出ても、彼らがたくましく、危機に立ち向かえるようになることが、十分期待できるのではないかと思います。

危機は必ずしも、一方的な危険な方向だけではなくて、それをまた教育に生かすことができるチャンスもあるという視点で、教育現場では、危機対応を心がけなくてはいけないと思います。

(上地安昭元兵庫県立教育研究所・心の教育総合センター所長)