学校安全と危機教育 第8回

危機意識を高めるには

その1
危機意識の向上も大きな課題です。
学校現場で、改めてチェックしなければならないポイントの1つです。

河村建夫文部科学大臣(当時)は、先日の新聞で「学校の危機は恒常的で、全国規模でみると、毎日毎日どこかで大変な危機が起こっている」と語っています。

このように、いつ自分の学校で危機が起こるか分からないという危機意識は、研修を受けることで高まる可能性があると思います。

私は、大学の附属学校の校長を3年間務めたことがあります。その時に、学校での事件・事故が新聞報道されたときには、特に地方版の報道に、ちょっとしたニュースがあると、この記事をコピーして、朝出勤してきた先生方の机の上においておくことになっていました。

先生の中で記事のコピー係の担当を決めておくのです。朝の職員会議で、校長が「隣の学校でこのような事件がありました。今一度、先生方、チェックしていただけますか。本校で起こっても不思議ではないと思います」という感じで、注意を呼びかけました。これを可能な限り、毎朝続けていきました。

現在勤めている研究所でも、その係がいて、いつも記事を置いてくれて非常に助かっています。このような工夫で、日常的な危機意識の向上は可能だと思います。

次に、危機対応の実践マニュアルの作成です。各学校では、独自にマニュアルはつくっているかと思います。

文科省、あるいは教育委員会からは、マニュアル作成の参考となる資料が各学校に配られています。

しかし、この資料は、標準的なマニュアルです。各学校は独自のマニュアルを作らないと役に立ちません。

マニュアルをつくっても、「いざ、危機が起こったときにはまるで役に立たない」と言う先生が大勢います。

緊急事態の対応では、マニュアルを広げる時間は確かにないのかもしれません。

ただ、私は、いくつかマニュアルをつくった経験から思ったことですが、マニュアルはつくる過程に意味があるのではないかと思います。

我々は、緊急事態に、どのように行動するかと言えば、その場でのその人の直感でしか動けません。

我々の瞬間的な、即時的行動はどのように、どのような内容で出てくるかというと、これまで学習した成果・経験がそこに出てくるのです。

ですから、マニュアルを作った人は、学校のスタッフ数や学校の危険個所のポイントをつかんでいないと書けないのです。

その意味から、マニュアルを作った人には、危機対応で点検・確認しなければいけない項目、自校での具体的な対応の方法などがほとんどインプットされています。

それが危機場面で、すぐに瞬間的な行動として出てくることが期待されます。

その2
次に、危機対応チームの組織づくりの問題があります。文科省は、各学校で危機チームを組織するようにアドバイスしています。

学校外の警察や救急・医療機関への緊急連絡も重要です。

兵庫県では、県警と幼・小・中・高校、児童を預かる施設のすべてに、県警直通の緊急連絡網があります。プッシュボタン1つで、県警にすぐつながるようになっていて、通話が可能です。

事件の通報があると、学校に一番近い警察に県警本部から連絡が行き、そこから警察署員が派遣されるようになっています。このような、緊急連絡網は、警察との間だけでは十分とは言えません。

危機対応の校内研修の実施や、予防的実地訓練も大切です。統計によると、全国の小学校の半数以上が実地訓練を実施しています。

訓練では、子どもも参加し、外部から侵入者が入ってきたことを想定した危機対応を学びます。

これらが、今、学校で対応すべき課題ではないかと思います。

1人の教師で危機に対応するのは非常に困難であることから、学校の組織全体で対応しなければなりません。そこで、危機対応のチームが必要になります。

これは、米国の危機対応チームがモデルとなっています。米国のチームには、危機の司令本部があります。

そこには、危機を統制し、指令するコーディネーターがいます。管理職、校長・教頭、危機介入の専門家のスクールサイコロジストなどが、コーディネーターとしての役割を果たします。

その下に、7つのリエゾンが設けられています。このリエゾンとは、日本語で言うと「専門機関との連携役割」です。

そこには、各リエゾンのリーダーがいます。これは、学校の教師です。医療リエゾンなら、スクールナース(養護教諭)が、医療機関との連携役割を果たします。

教師リエゾンは、教師のまとめ役、連絡役、連携役、保護者のまとめ役です。

保護者からよく顔を知られ信頼されている教師が担当します。そして、生徒リエゾンには、生徒指導部の担当の先生が担当します。

メディアリエゾンは、日本の場合には、一般に管理職がメディアと対応するけれども、米国では、メディア対応の訓練をかなり受けた人が担当します。

メディアへの対応というのはとても大事な役割だからです。

メディアの対応の仕方によっては、2次被害が起こったり、とんでもないことに発展してしまう可能性があるからです。メディアリエゾンのスタッフもかなり訓練されています。

司法行政リエゾンは、法律に詳しく、いろいろな事件・事故の問題の対応を法律的な視点からみる専門家です。

米国では、スクールアドミニストレーターという事務職員が担当し、行政力のある人が配置されます。

カウンセリングリエゾンは、スクールカウンセラーが担当し、心のケアに当たります。

ニューヨークのテロ事件以来、同州の公立小・中・高等学校のうち1000人規模の全学校では、この危機チームが学校ごとに結成されています。

規模の小さな学校では、複数校が1つの学区を形成し、その学区単位で危機チームが設けられています。この危機チームは、月1回ないしは2回、必ず会議を開くことになっています。

会議の中で、この1ヵ月間、学区内や学校内でどのような事件があり、どう対応したのかを逐一記録し、必ず、その上の教育長に報告するという大変厳しい義務が課せられているのです。

テロ事件以来、米国では、空港やビルの警備だけでなく、学校も危機管理・警備体制が大変厳しくなっていると聞いています。

日本では、まだ、そのような危機対応は、学校に義務づけられていませんが、これは、米国の学校の厳しさと言えます。

最近のことですが、米国の学校に行くとびっくりさせられます。

それは、学校では、登校時間が過ぎると校門が完全に施錠されているのです。

鍵が締められ、誰も入れない状況になる。訪問者はいちいちプッシュボタンを押して、鍵をあけてもらって校門の中に入らなければなりません。

それほど厳しいチェック体制のある学校も結構増えているということです。

もちろん、地方の学校では、オープンなキャンパスで、どこまでが学校なのか分からないようなところもあります。

大都会の学校では、かなり厳しいチェック体制が入っているというのが現実です。

(上地安昭元兵庫県立教育研究所・心の教育総合センター所長)