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教育・子どもの25年史 第1回
子どもを考える二つの視点
牟田武生
今、日本社会は明治維新、第二次世界大戦終結後、と同じ位の大きな社会的節目に 差しかかって来ています。教育の世界でも学力問題、青少年による凶悪事件、援助交際・覚 せい剤の拡がり等の非行問題、いじめ、不登校、学級崩壊、校内暴力、LD・ADHD・アスペル ガー(広汎性の発達障害)などの軽度の発達障害、虐待問題等、様々な新しい子どもの問題 が起っています。
これらの教育問題や生徒指導問題を考える時、子どもの心理を理解することと、そ の親(保護者)が学んだ時代の社会状況や学校生活を理解する二つの大きな視点が必要にな ると私は考えています。
なぜ、そのような視点が必要なのでしょうか。前者は98年(平成10年)栃木県 黒磯市で起きた女性教師殺害事件以降、昨年、6月に長崎県佐世保市で起きた小学6年生女児 殺害事件までに多発した青少年による凶悪事件を振り返ると、どの事件に共通することは、 今まで逮捕・補導暦もない普通の少年が、些細なことで突然キレて、相次いで殺害凶悪事件 を起こしたことです。これらの事件は、我が国の少年犯罪の歴史上、過去にはなかったこと です。
これからも対人関係のスキル不足から起きる人間関係のストレスを避けるため、精 神的に楽な行動として、インターネットやアニメなどの仮想社会に心の居場所をつくる若者 や子どもが増えることが予想されます。ですから、このような少年犯罪は今後も増えること が考えられます。佐世保事件で明らかになったように、加害女児は精神鑑定を行っても、 精神病理的なことは何一つ見つかりませんでした。言葉を変えると、ごく普通の小学生があ る日、突然、インターネット上の些細なトラブルが原因で、級友をカッターナイフによって 学校内でいきなり殺害したことになります。今までこんな事件は起らなかったので、多くの 人は大変、大きな衝撃的なショックを受けました。
今を生きる子ども達のおかれている社会状況や環境は、私達、大人が利潤追求する
ことや大人にとって都合の良い合理性を求めるために作り出したのかもしれません。しかし、
子ども達は、その影響をまともに受けて育っています。
この社会状況を作り出した私達
大人は、社会的責任上、子ども達の壊れやすい心を理解し、支え、育てなおす義務がありま
す。そのことによって、今後、起るかもしれない類似した事件を未然に防ぐ、予防に繋げて
行く努力をしなくてはなりません。
後者は大人達の問題です。
離婚率と幼児及び児童虐待の急増は何を意味してい
るのか。また、教師にとって、関わり方が難しい親(保護者)がなぜ増えているのかという、
表裏一体の二つの問いに、真剣に考えて行かなければなりません。
教師対親の関わりの難しさは同時に、親子関係も大きく変容してきている現われな
のかもしれません。
子どもだけではなく、親のおかれている社会状況や環境も、同時に
理解していかなければ、学校教育に対する親が持つ、不信感や不満感は分かりません。それ
が分からなければ本当の意味で生徒指導やカウンセリングは出来ません。また、広義に考え
れば、学校教育そのものが出来なくなってしまうのかもしれません。
このシリーズでは、子ども達が起こした凶悪少年事件やいじめ事件・不登校問題な どを軸にして、親が小中学生の時代(25年前)までさかのぼって、もう一度、その意味や背 景について検証していきます。そのことによって、先生方には明日に繋がる学校教育や生徒 指導のあり方を、親にとっては子どもを育てる楽しさや素晴らしさの、両方のヒントになっ ていくことが出来るかもしれません。
2005.1.20
ご協力いただいている執筆者の略歴:牟田武生(むたたけお)
1947年生まれ。72年に民間の教育相談機関である教育研究所を設立し、不登校を含めた
教育問題の相談・援助活動に取り組んでいる。現在、
NPO法人教育研究所(横浜市港南区)理事長。91年に教師・カウンセラー・児童相談所の相
談員等不登校にかかわる専門家を対象にした研修機関として不登校問題研究会を設立。元NHKラジオ「子どもと教育電話相談」相談員、不登校問題研究会代表幹事、元文部省
「不登校の実態に関する調査」検討委員会委員。主な著書:『ひきこもり/ 不登校の処方箋 増補版』(オクムラ書店)、『すぐに解決!子どもの緊急事態Q&A』 ( オクムラ書店)、『ネット依存の恐怖』(教育出版)など。