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教育・子どもの25年史 第3回

牟田武生

80年代は金属バット両親殺害事件に始まった。この事件の背景にあるものは受験競争を煽る偏差値教育だった。高度経済成長を遂げた日本は国民総生産(GNP・現在はGDP)で米国に次ぎ、世界第二位の経済大国に成長していた。その経済発展の伸び率に世界中の人々が驚いた。米国屈指の民間研究所のハドソン研究所の未来学者ハーマン・カーンは21世紀は日本の世紀という予言をした。

日本的な経済構造としての終身雇用制と年功序列型の給与体系は、他の資本主義の国には見られない独特のものであった。また、国民が企業の株を買い投資家になって、企業を支える形態ではなく、企業間同士で大量の株を買い合って成長するというグループ企業の論理が強くあった。欧米のように資本家や投資家の姿は見えず、総国民サラーリーマンが進んでいった。国民は戦後の高度経済成長を支えた平等神話を成立させ、一億総中流意識を持たされ、高級車、家電製品、AV機器、快適な空調設備のあるマンションなどの物に溢れた生活を良しとする風潮に支配されていった。

第一次産業は衰え、ものづくり(第二次産業)から、より付加価値の高いサービスを提供する(第三次産業)へ移行していく過程でもあった。国の政策も造船や自動車産業より、コンピュータなどの知的集約型・資本集約型産業に向かってシフトを切ろうとしていた。「日本は世界のシンクタンクになる」と大物政治家が言い出し、大企業や官僚中心の管理社会はさらに速度を増し巨大化していった。

そんな中、団塊世代のジュニアが小学生になった。「良い高校は、一流大学、一流企業につながり、幸せな人生の保証」と言う勝ち組神話が、この世代の親達に受け継がれていった。子ども達が望む、様々な人生の価値観を持った生き方としての選択肢は少なくなり、管理社会のマス化によって、精神的な自由の許容度は次第に狭まられていった。そして、勉強の嫌いな子や苦手な子に「日本には将来、頭を使う仕事しかないから、勉強しないと大変なことになるよ」と、不安から脅す親まで現れた。

受験産業としての予備校・受験塾が急成長していった。子ども達も小さい時から、水泳・ピアノ・公文式・英語教室などに通わされた。そして、有名私立幼稚園に合格するための幼児の英才塾なるものが生まれ「お受験」という言葉がマスコミを賑わした。塾に行かない子のことを「未塾児」というおかしな言葉も生まれた。

偏差値という尺度で学校をランク付けし、模擬試験や学校の成績でも偏差値が使われ、「お前、偏差値いくつ?」という小学6年生まで登場した。

家庭で夕食を食べずに塾の行き帰りに、ファーストフードやコンビニで、すます子ども達が現れ、一人で食事をする個食現象が始まった。個室があたり前になり子どもによっては部屋でテレビを見て、ウォークマンでCDを聞く。家にいる時はほとんど部屋で過ごす中、高校生が普通になっていった。自宅はまるでビジネスホテルのようになる擬似単身赴任化の現象が起りだした。

家族間の会話は少なくなり、親子で「春めいて来たね。今朝、庭の梅の木で鶯が鳴いたよ」というような情緒的な会話が少なく、代わりに「勉強はしたの?」というような実用的とも事務的とも言える会話が多くなっていった。

町にでても、お店の人と旬の魚や野菜の話をしながら買い物をする風景はなくなった。ファーストフード店で全国一率のマニュアル挨拶が広がった。マニュアル挨拶には心がともなっていないことはみんな分かっている。便利さや合理性の中で地元の商店街は衰退し、大型スーパー、コンビニが活気を出し、全国チエーン化していった。それとともに地域の子育て力はなくなっていった。

家族関係の希薄化や地域社会の衰退は、子ども達を人として育てる総合的な教育力の低下を意味した。そして、偏差値教育の進行は、学力による子どものラベリング(差別化)を意味し、「落ちこぼれ」というおそろしい言葉が生まれ流行ったのもこの頃だった。

以下次号

2005.3.18

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ご協力いただいている執筆者の略歴:牟田武生(むたたけお)

牟田武生(むたたけお) 1947年生まれ。72年に民間の教育相談機関である教育研究所を設立し、不登校を含めた 教育問題の相談・援助活動に取り組んでいる。現在、 NPO法人教育研究所(横浜市港南区)理事長。91年に教師・カウンセラー・児童相談所の相 談員等不登校にかかわる専門家を対象にした研修機関として不登校問題研究会を設立。元NHKラジオ「子どもと教育電話相談」相談員、不登校問題研究会代表幹事、元文部省 「不登校の実態に関する調査」検討委員会委員。
主な著書:『ひきこもり/ 不登校の処方箋 増補版』(オクムラ書店)、『すぐに解決!子どもの緊急事態Q&A』 ( オクムラ書店)、『ネット依存の恐怖』(教育出版)など。